ちはやふる 第33巻(第169-173首)考察

漫画

  • 表紙絵:新、毬栗
  • 表紙袖:憂かりける 人を初瀬の 山おろしよ はげしかれとは 祈らぬものを(第172首)#74
  • 巻末漫画:須藤から美馬への少女漫画的な壁ドンなど

以下、伏線と名言の個人的メモ。

第169首

「基礎も理論も根性も きっと下の子たちに残るのは 肉まんくんの言ったことだよ」

個人戦A級準決勝、新と戦うもまた破れてしまった肉まんくん。それでも高校最後の試合をベスト4という好成績で終われて良かった。千早が掛けた言葉からは感謝が伝わって来るね。試合で読まれた札は 「きりぎりす」 「あけぬれば」 「たごのうらに」 「めぐりあいて」 「なにわえの」 「みかきもり」 「さびしさに」などで、眼鏡が吹っ飛んだ時の札は 「ひさかたの」らしい。

第170首

「人に頼っていては着られません 覚悟しなければ自分のものにはなりません」

各階級決勝の始まり。扉絵は水に浸る新のイメージ。外れた眼鏡が、底に沈んで行っている。思えば、第32巻第166首で始まったこの日は、起床前で眼鏡を外している新から描写されていた。同時に、女子部員が眼鏡の話をしていた。前話では肉まんくんとぶつかり、眼鏡が吹っ飛んだ。要するに、キーワードは眼鏡だ。新の視力は小学生時点で0.03と非常に悪く、目の前の男子と千早を間違えてしまう程だった。眼鏡の着脱で見るも見ないも自由自在。わざわざ眼鏡を外すあたり、千早をまともに見たくなかったのだろう。個人戦に出ないと言ったのも、千早と当たりたくなかった故か。前話で千早の負けを確認してから勝ちを決めに行ったかのようだったし。

「ちは」札もわざと取らなかった? 新と「ちは」と言えば、第9巻第48首で想像上にも関わらず、自陣の「ちは」を周防に取られている描写が印象深い。更に記録を探ると、吉野会大会で「ちは」が読まれているが、新が取れたかどうかは不明。第21巻第111首の西日本予選では、村尾に取られた。第23巻第119首の挑戦者決定戦では、自陣に残したまま敗戦。高松宮杯太一戦でも読まれなかったと、第26巻第137首で回顧している。古くは第2巻第6首での小学校卒業式の日のアパートでも、千早が奪取。その回冒頭で描かれたチームちはやふるで三人揃って取れてたくらいか。実は、徹底的に「ちは」と縁がない新。

そして、いつものアパート部屋。第31巻第161首で二人が対戦した時に飛ばされた「やえむぐら」札の寂し気な描写がここで来た。イメージする時は小学生の自分達のままだったが、知っている千早はもう居なかったと気付き、新も卒業すべきだと考えが纏まり始めた、といったところか。

かなちゃん母の「覚悟しなければ自分のものにはなりません」も意味深。新の場合、他を置いてでも目指すべきは名人であろう。朝に管野先生から「おまえが狙うのは名人の座や!」と檄を飛ばされたばかりだ。もう一つ、恋愛心理を表現しているとされる紅葉背景で、第21巻第109首にて太一が千早を思い浮かべているのとは対照的に、新は名人のことを考えていたのも見逃せない。

尚、前年夏に新が「試合するときはいつもあの部屋(アパート)に帰るんや」と電話で言っていたのを元に、第17巻第93首で千早が三組の対戦を想像しているが、この話を以って今大会で全て再現された。つまり、あれは未来図だったらしい。試合中に読まれた札は 「ひともをし」 「わすれじの」 「あさじうの」 「ちはやぶる」。

第171首

千早… あの部屋のイメージにい続けたら いま以上の強さは身につかん 離れたくない ずっとここにいたい 千早と太一とかるたした部屋でまたずっと でも 好きな子にかるたで負けて これまでの自分でいいなんて思えんのや

A級とB級の決勝戦。扉絵に添えられた「その部屋は、今日までの道のりを約束した場所」という煽り文句のアパートで、前話同様に一人きりで畳の上のかるたに目を落とす新。様子がおかしいのは、告白にノーリアクションな上に、太一に神経が行ってる自分のせいだって分からんもんかね、千早さん。そして、ヒョロの好きな食べ物は春菊w いや、私も好きだけど、ピンポイントで挙げるかwww

読まれた札は 「やすらわで」 「あらざらん」 「なげきつつ」 「あまのはら」 「ほととぎす」 「なつのよは」 「ふくからに」 「かくとだに」 「あいみての」 「こいすちょう」 「しらつゆに」、冷たくなった相手への執着を詠う 「おおことの」。

第172首

新は違うんや ‘‘君が取る番や‘‘っていうときを作る

個人戦決着。千早は新に勝ち、新は詩暢に勝ち、詩暢は千早に勝つ、という三竦み。机くんはかなちゃんが好きな「たご」で優勝を決める筈が、結局それを自陣から取られて負けちゃった。特定の札への拘りは凶ってことだ。ところで、最後の札の配置は作画ミスかな。

前日から気力が低下していた新が覚醒して勝ったわけだが、第32巻第166首で後輩くんが「最後の運命戦で勝つ」と予言していたよ。登場したのは「みちのくの」「よのなかよ」「うらみわび」、読みの描写はないが新が超加速で取った「うかりける」、「すみのえの」「せをはやみ」「いまこんと」「たきのおとは」「たごのうらに」で、運命戦の札は幼友達を詠う「めぐりあいて」。詩暢の手元に残ったのは、若い頃が花と嘆く「はなのいろは」。

途中、ここは「うか」を描く流れだろうと思ったところでフォーカスされていた札が、祈ってもかいのない嘆きの「うかりける」ではなく、不本意な恋の行方を嘆く「うらみわび」。新が微妙な意味を含む「せをはやみ」に拘り始めたり、恋の決着はまだまだ引っ張りますよ的な暗示が。

第173首

安定? いつもどおりの自力? ちがう もう一段強くなろうとしたんや 自分以外の力を借りる 不安定で貪欲なかるた

全国大会表彰式。村尾さんの見立てでは「不安定で貪欲なかるた」、第17巻第90首で千早が見た新は「なにが触れても弾き返される安定した世界 千速振る」。あれ? 新が全力で逆走して行っている?

新は第170首の「さよならが近いだけや」で千早への思いを断ち切るのかと思いきや、会話してはっきりさせるわけでもなく帰ろうとしていたし、ひとまず保留にしておいて名人戦を目指す方向らしい。しかし、「こぬひとを」のように藻塩になっていたら困る、と千早から来た。新を好きだからそうなっていたら困る、と普通は捉えるよね。千早が新の肩や腕を掴んだり、新が千早の肩に手を置いたりと、過去にない接触ぶりも描かれている。

但し、同時に千早は、第28巻第145首で机くん達の親密ぶりに注目しつつも意味を理解していなかったらしく、結局あんぽんたんなままだった、という前振り付き。何より物凄い唐突感。高松宮杯以降は新に告白されたのもすっぽり抜け落ちたかのように思い出しもせず、24時間程前迄「太一太一」と泣いていた千早は一体何だったのか。千早が言う「強くなる道を行きたい」はむしろ、この日の朝の独白、第166首「太一が次を語る 目の前にはばあっと かるたの道が続いてる」で太一に繋がるのだが。それを踏まえると、新を見送る千早の表情が微妙にも見えて来る。

全国大会に関する話の始まりと終わりが「一人」描写。出発前の第30巻第154首で部室に一人、団体三位決定戦では「一人でも大丈夫」的な「おおえやま」札、そして今回は楼門に一人向かって一礼。小学生時では卒業後に「一人になるの?」と悲観し、第7巻第36首では単独で大会に臨む太一を「一人だったらどうしよう」と心配したりと、「一人」を嫌う千早の今後が気掛かり。

筑波もあんぽんたんの仲間らしい。第30巻第154首で肉まんくんが机くんに「つきあってってかなちゃんに言わねーの」と煽っている場面で、筑波もそれを聞いて驚いているのに、ここで初めて聞いたような反応。そんな筑波を絶望的な表情で見ている菫は、気持ちというか情が移りつつある?

肉まんくんが告白を「ウソだよ」と言っているが、第26巻第138首で太一がそう心の中で連呼しつつ声に出さなかったのと、これは対比になるのだろうか。また、「こぬひとを」はかなちゃんが表紙に描かれている第7巻にて、表紙袖で紹介されている歌だったりする。これも伏線のうちだったのだろうか。

うかりける

新の目ヂカラにやられそうな表紙に掛けられた帯広告は「きみに誓う――。『強くなる』と。」とある。毬栗にも花言葉があるのね。「まごころ」「公平」「豊かな喜び」だそうな。

娯楽