イギリス ラムズゲート クリスマス・プディングの謎

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12月25日の朝六時、ホストシスターが自室に突撃して来た。「起きて、起きて!」と急かすが、まだ布団に包まっていたい。前日はパーティーの後、午前零時に始まる教会のミサにも参加したので、午前様だったのだ。学校は三日間のクリスマス休暇。今日はもうちょっと寝かせてよ。

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三度も催促され、観念してベッドから出た。誘われたのは、居間のクリスマス・ツリーの下。周りには未開封のクリスマスプレゼントが軽く見積もっても三十個以上並べられている。一週間程前から好きなものを一日一つ開けることが許され、この日は残り全てが解禁されるというわけ。楽しみで仕方ない彼女は早起きし、嬉しさを私と分かち合いたかったのだ。

ちなみに、私が彼女に贈ったプレゼントは、ドラッグストアで買った24色カラーペンセット。勿論、25日開封の「その他大勢」扱い。数日前に慌てて用意したそれを彼女は喜び、早速使ってくれたが、安かっただけあってペン先が渇いていた。

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クリスマスに先立ち、家族の親戚や友人達からプレゼントの他、夥しい数のカードも届いている。送られて来たカードは都度、居間の飾り棚に所狭しと並べられていた。ホストシスターと学校の先生から私個人が貰った二通もクリスマス期間中、自室の箪笥の上に飾っておいた。

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そのクリスマスを数日後に控えた夕食後のこと。「今日はクリスマス・プディングがあるよ」と言うので、デザートが出るのは初めてだったし、「プリン」は大好きなので楽しみに待っていたら、ホストマザーが出したのは「ゼリー」。しかも、着色料が怖いくらい入っていそうな鮮やかな赤。甘ったるいホイップクリームが乗せられていたが、本体も添え物も全然美味しくない。

翌日、またクリスマス・プディングが出ると言う。昨日の残りか、ちょっと憂鬱だな、と思っていたら違うものらしい。しかし出てきたものはまたもや「ゼリー」。但し、今度は緑色。昨日は赤だった。なるほど、クリスマス・カラーか。

次の24日は学校でパーティーがあったため、家では夕食もデザートも食べなかった。

そして迎えた25日、クリスマス当日。事前に言われていた通り、一張羅に化粧も施して食卓に着き、午後二時にクリスマス・ディナーがスタート。思い返せば、家族四人と私が揃ったのは、これが最初で最後だった。食事を終えると、「さあ、クリスマス・プディングを食べましょう」。ああ、怒涛のゼリー攻撃――と眩暈を覚えた私だったが、ホストマザーが出したのはテーブル横に置いてあった妙にどす黒い物体。

しかし、ここからの演出が最高だった。プディングに火が点けられ、一瞬蒼く燃え上がるのが幻想的。ホストシスターが「コイン、コイン!」と騒いでいる。良く分からないまま切り分けられた熱々のプディングにフォークを入れると、中からホイルに包まれた20ペンス硬貨が出て来た。これが当たるとラッキーさんなのだとか。気を使ってくれたのか偶然だったのかは定かではないが、嬉しくなってしまう。

手持ちの辞書で「pudding」を引いても、片仮名で「プディング」としか載っていない。要するにデザートという広い意味で解釈すれば良いのだろうが、曖昧なままステイ先でのクリスマス・プディング攻めは終焉を迎えた。

ドライフルーツ、ナッツなどが入るがパウンドケーキほど軽くなく、ブランデーをたっぷり染み込ませた、結構ヘビーな蒸し焼きした菓子――これがクリスマス・プディングの定番らしい。最後に食べたのが、その説明に近いかも。アガサ・クリスティの小説、名探偵エルキュール・ポアロが活躍する「クリスマス・プディングの冒険」によれば、中に入れるのは御神籤的なもので、将来金持ちになれるという意味のあるコインの他に、指輪=結婚、指貫=一生独身などがある。

その後、現地のクリスマス・プディングを購入する機会を得た。火を点けたり、何かが入っているという演出もないせいか面白味もなく、第一に私の舌にはやはり合わなかった。

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尚、ステイ先での朝食は、バターかマーガリンが塗られた食パン一枚に、フライドポテトかマッシュポテト、グリンピース、人参などの付け合せが定番。食卓に置かれたジャムはお好みで。アフタヌーン・ティーの国らしく、ミルクたっぷりの紅茶が美味しかった。ある朝、その作り方を見た。小鍋にお湯を沸かし、ティーバッグと砂糖と牛乳を投入、暫し放置。美味しかったから問題ないが、ティーバッグに興醒め。

夕食はパスタかポークソテーといったメインに野菜の付け合せが、一つの皿に乗せられるパターンが多かった。米は勿論、パンも無し。クリスマス・ディナーはビーフステーキに、いつもの野菜の付け合せ、ミートソースのパスタなど。但し、この家庭での料理だが、肉はウェルダン、野菜は冷凍物、アルデンテの倍以上茹でていそうな麺、というのが常。水で戻すインスタントのマッシュポテトが水分を含み過ぎていて、芋のざらざらが皿の端から中央に流れていたりも。悪名高き「イギリス家庭料理」とはこういうものなのか。

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滞在中の朝食と夕食はステイ先で、学校のある日の昼食は学校併設ホテルのレストラン、休校日はだいたい外出していたのでイギリス名物フィッシュ・アンド・チップスやマクドナルドで済ませていた。学校での食事は、決まった料理から好きな量を給仕して貰う「着席ビュッフェ」形式。他国の学生と交流する貴重な場だが、中近東系男子学生は大抵無口。

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語学学校の修了証。

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